October 13, 2008

緒方拳と小学生の淡い初恋

風のガーデンの花言葉

俳優の緒方拳が亡くなったというニュースにはちょっと驚いた。
小学生の頃だったか、NHKの大河ドラマによく出ていたのを思い出す。ニュースでは、彼の出世作として「太閤記」(大河ドラマ・1965年)ばかりが強調されていたが、私が覚えているのは1970年代以降の放送である。すでに彼が技量の高い役者として、その地位を確立していたころではなかったか。

とくに印象に残っているのは、1976年に放送された「風と雲と虹と」での藤原純友役。主役は、室町時代中期に朝廷への反乱を起こした平将門を演じる加藤剛。同時期に反乱を起こした純友は、瀬戸内の海を跋扈(ばっこ)する荒くれたちの首領であった。

教科書的にいえば、二つの反乱は、貴族の時代から武士の時代へと大きな変化が始まっていたことを示す、…とされる。今思えば当時の大人たちは、かつて源義経(1966年、大河ドラマ)で弁慶を演じた緒方が、やはり瀬戸内を重要な基盤とした平家を思わせる役どころを演じるというようなところにも関心が持たれていたのかもしれない。

風貌のせいか、主役の加藤はやや大味、小学生にその魅力を理解するの難しい。藤原純友を演じた緒方の野性味と、その中の人間臭さに惹かれていた。その後も、山田太一の作品との相性に凄味があったような気がしている。

…とかなんとか、いっぱしの批評家気取りで考えながら帰宅すると、亡くなる直前に収録を終えたというテレビドラマ「風のガーデン」の初回を録画されていたのでさっそく妻と二人で観ることにした。倉本聰の脚本ということもあって、今回も北海道・富良野が舞台。緒方が扮するのは、わけあって二人の孫といっしょに暮らす老年の医師、貞三である。

貞三は、身近な花に思い思いの花ことばを付けていた。知的障害の男の子で孫の岳は、植物の名前とともにその花ことばを片端から覚えていくというエピソードが挿入されている。訃報を知っているだけに、ひとつひとつの花言葉に込められた思いをあれこれ考えてしまう。
この日の放送では、ある小さな赤い花に「小学生の淡い初恋」という花言葉を付け、岳に覚えさせていた。
「初恋ってわかりますか?」
岳に問いかけるこのやり取りは、何かの伏線になっているのだろうか。

貞三の花言葉(番組公式ページ)

小学生の淡い初恋

風のガーデンの放送が始まったこの日は木曜日。
小学校2年生になった愚息の虹太が、いつになく長時間、真剣に宿題に取り組んでいた。
いつもなら、いい加減かつ乱暴にチャッとやるのがセイゼイなのに、大変珍しい姿であった。

いったいどんな宿題なのかと覗き込んでみると、この二週間お世話になった教育実習生のY先生にお礼とお別れの手紙を書いているのだという。

日頃はろくに絵を描くこともないので、その拙さが痛々しい。とくに人物を描くのが苦手。ようするに目と鼻と口、頭と胴と手足のバランスはおろか、それぞのアイテムの記号的なバリエーションすら会得していない。それでも、先生と自分しかいない教室風景を枠いっぱいに描いて見せた。親の眼には、現時点における彼の総力を注ぎこんだ秀作であるとハッキリと分かった。

文章は別の紙に下書きまでして、ママと相談しながら慎重に練り上げている。卒業後は自分の小学校にぜひ着任して欲しいと3度繰り返してから、「約束だよ」と一方的かつ身勝手な契約を押し付ける文末で締めくくられていた。

さてさて、実習生のY先生はどんな女学生だろう。
例の花言葉を思い出しながら、思いを馳せた。

「パパも大学生のとき、教生の先生をやったことがあるんだよ」

「それじゃあ、お手紙はもらった?」

「中学校だったから少ないけど、3通ぐらいならもらったかな」

「そのお手紙、今も持ってる?」

「……。」

真剣なまなざしにも、ただただ絶句するばかり。
ランドセルにしまった手紙を今一度確かめてから背負った愚息を見送りながら、
つまらない自慢をしてしまったことを後悔した。

「少年よ。パパは幼稚園の担任の先生に初恋してたぞー!」

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November 25, 2006

飛べない千秋様~のだめカンタービレ


現在テレビ放送中のドラマの中で、いちばんのお気に入りは「のだめカンタービレ」(番組公式)。当ブログをご覧頂いている方には、トレンディードラマなんて見てるわけないじゃんという方も多そうなので、ウィキペディア(Wikipedia)からちょっと紹介文を引用する。

ピアノ科に在籍しながらも指揮者を目指すエリート音楽大学生・千秋真一は、将来に行き詰まりを感じて思い悩む日々を送っていた。担任の教授との口論の末決別、別れた彼女にもつれなくされて自暴自棄になっていた。

ある日、ゴミ溜めと悪臭の中で美しいピアノソナタを奏でる、変人女と出会ってしまう。彼女の名前は野田恵(通称・のだめ)。なんと千秋と同じマンションの隣の部屋に住み、同じ音大のピアノ科に在籍していたのだった。第一印象は最悪極まりなかったものの、千秋はのだめの中に秘められた天賦の才を敏感に感じ取る。以来、のだめの才能を引き出すべく、なんだかんだと彼女に関わるようになる。

見た目は無愛想だが、本人も意識せず面倒見が良い性格からか、のだめをはじめとする音大の変人たちになつかれ、順調に道を踏み外しながらも、千秋は新しい世界、そして指揮者への道を一歩一歩切り拓いていく。
(Wikipedia「のだめカンタービレ」より)

 ようするに、音大を舞台に、エリート千秋様とピンからキリまでの仲間達の悲喜こもごもを描いている。

 気になるのは他でもない、千秋様のキャラにひとつだけある無理ヤリな設定のことだ。
 幼少のころからドイツのマエストロに直接指導されていたという千秋様だが、帰国の便で胴体着陸を経験し、恐怖症となって飛行機も船にも乗れない。だから、どんなに実力が認められようと海外留学ができない。だから国内でもがくしかない。…という設定で、これがなければ物語は成立不可能だ。
 睡眠薬でも飲んで寝続けながら飛ぶとか、なんとか身体を運んじまえばいいだろうにと思うけど、それじゃあ物語は終わってしまうなぁ。

 もしかしたらクラシック音楽に限らず、あらゆる分野の千秋様は、国内の大学からいなくなってしまっているのじゃないか。要らぬ心配かもしれないが、そんなことを考えた。

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