February 23, 2007

雇用対策法改正はどんな効果を及ぼすのか--外国人従業員の雇用情況届け出を義務化へ(1)

外国人従業員の雇用情況を、厚労省の出先機関であるハローワーク(公共職業安定所)に報告することを義務付けることを含んだ雇用対策法の改正案が、2月13日閣議を経て国会に送られ、明らかになった。早ければゴールデンウィーク前後にも審議が始まり、夏までには施行となる見込みである。今国会の注目法案として、当ブログでもさっそくフォローしていきたい。

在日以外、すべての外国人従業員が対象
 雇用主が報告しなければならなくなるのは、「在日」やオールドカマーと呼ばれる韓国朝鮮人をのぞく、全外国人従業員の雇用情況である。
来日したばかりの外国人や、数年以内に帰国を予定する外国人ばかりでなく、永住者や日本人の配偶者者、あるいは国内で生まれた外国人も対象になる。後述するようにこれが適切かどうかは、大いに議論が必要なところとなるだろう。
 いったいどんなデータの提供を雇用主に義務付けるのだろうか。条文としては、「その者の氏名、在留資格、在留期間、その他省令で定める事項」とある。省令でどのようなデータを含めるのかは政府側の説明や答弁を待つしかない。

採用抑制の恐れは?
 これからしばらくこの法案を吟味することにするが、まず初めに、筆者が重要だと思うポイントを2つだけ挙げておこう。
 第一に、これが最も心配されることであるが、雇用主と従業員の関係にどのような変化をもたらすか。もっといえば、外国人やその周辺の人々の雇用情況に、悪影響をもたらすことにならないかどうかである。
たとえば、雇用主が報告を面倒に思い外国人の雇用を抑制することにならないだろうか。あるいは、具体的な採用のシーンで「在日を除く外国人」かどうか、その区別を雇用主はどうやって付けることになるのだろうか。厳密さを求めれば、これだけでも相当やっかいな作業であるにちがいない。

在留審査への影響は?
 第二のポイントは、この法案が、法務大臣の求めに応じて、報告された情報を法務省に提供する規定を含んでいることである。いうまでもなく、在留資格を審査する入国管理局は、法務省内にある。ハローワークが持つことになる情報は、法文が指定する項目だけではない。雇用保険の事務を取り扱うため、雇用主である事業所の情報や支給される毎月の給与の額といった情報も保有している。いったいどんな情報を厚労省は法務省に提供することになるのか、これも法案の条文だけからではわからないが、雇用情況報告の内容や有無を、在留資格の更新や上陸審査に反映できることを意味する。

日系人を念頭に置く改正議論
 雇用情況報告の義務化が提案されることになったきっかけは、いわゆる日系人問題である。国内の製造業における労働力不足から、ブラジルやペルーの日系人に自由な就労を認めたのは1990年。それから16年経って、彼らの社会保障や子ども達の教育がようやく(本当にようやくと言っていいだろう)、政策議論の中に入ってきたのは2005-2006年度ののことだ。
 就労を認めたこと以外はほとんど無策といっていい中で、少なくなった日本人の季節労働者が少なくなったところを埋め、派遣や請負関係が入り組んだ領域で、長時間労働で稼いできた。しかし、もちろん子どももいれば、怪我をしたり病気になったりもする。90年代初頭、20~30歳の働き盛りにやってきた第一陣も40代50代に差し掛かり、そろそろだいぶ老後の話しも切実になってきている。
 もとより、これまでまるで無視を決め込んできたことを改め、政府や地方自治体が各人の情況を的確に把握し、社会保障やセーフティーネットの網を広げる必要がある。これが今回の法改正の背景となる「社会的なスジ」のひとつである。この意味で政府が個人の詳細な情報を補足しようとすることは、必ずしも的外れではない。

 ただし、これまでの無策を棚に挙げて「日系人政策は失敗」と公言する者がいたのには、あきれるばかりだが、警戒感を抱く。また、「『不良外国人』を排除せよ」と掛け声をかけて、排外主義的な雰囲気を煽る傾向があり、こちらを利するような法改正にはキッチリ反対していきたい。
 そのような社会的磁場を十分に考慮に入れながら、しばらくこの法案を考えていくことにするのでお付き合いください。


「雇用対策法及び地域雇用開発促進法の一部を改正する法律案」について(厚労省・2007年2月13日)

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September 14, 2006

在留管理制度の改正論議を診る-02

これまでの改正の動きとこれから

 まずは、表2を参考にしながら、これまでの動きをおさらいしておこう。
 表立った議論が始まるのは自民党政務調査会が2005年6月に公表したペーパーで、テロ対策や犯罪対策を連ねたものだが、いわゆる水際対策だけでなく、ここで始めて在留管理の強化を謳い、具体的な項目を挙げている。(表2)この段階ですでに、雇用状況報告の義務化などを含んでいた。
 この後、議論は小泉改革全体をコントロールする政権の本丸、「規制改革・民間開放推進協議会」に引き継がれた。05年12月の第二次答申の中には、「必要な行政サービスが適時的確に提供されるよう」という、かねてより「外国人集住都市会議」やそのブレーンが強調してきた観点と合わせ、先の政務調査会ペーパーの骨子の大部分が盛り込まれている。
 政務調査会のペーパーは、ちょうど米国のUS-Visitの日本版を入国審査に導入する議論と平行して行なわれたため、当時は「IC在留カード」の導入など情報システム面ばかりが強調されて報道されていたが、現在から見ると、すでに既定の路線になっていた水際対策よりも、新たな項目を並べ在留管理制度の側面を強調したことの方が重要だったのかもしれない。もっとも、システム面の検討は犯罪対策閣僚会議がワーキンググループを作って検討を続けており、どちらかといえばこちらの方に主導権が移る。秋までに、この閣僚会議のWG、推進協議会の外国人WGの双方で、お互いを睨みながら検討が進められ、現在は最終的な答申案が調整されているところだと見られる。
 今後の日程としては、早ければ、規制改革・民間開放推進協議会が年内にも予定している第三次答申(06年12月)でより具体的な改正ポイントが列挙されることになりそうだ。この答申に沿って法案化され、07年の時期通常国会に関連法案が提出される可能性がかなり大きい。
 06年06月に、法務省、厚労省、総務省が相次いでそれぞれの観点からペーパーを公表しているのも、年末までに策定される答申をにらんで、それぞれの立場を表明したから。経団連や日弁連、外国人集住都市会議も、この時期に再度意見表明をしている。
 次期首相となりそうな安倍官房長官は、これまでのところとくにこの流れをさえぎるような発言はしていない。同推進協議会の位置付けが、次期政権で変更されるようなことがない限り、改正を巡る議論は、今まさに正念場を迎えている。
(つづく)

表2 在留管理改正への主要な動き
2004年4月 経団連「外国人受け入れに関する提言」
          外国人雇用法と就労管理制度を提言
2005年6月 自民党政務調査会「新たな入国管理施策への提言-不法滞在者の半減をめざして」
        IC在留カードの発行と、外国人、企業、学校に新たな変更・報告義務
2005年7月 犯罪対策閣僚会議に「外国人の在留管理に対するワーキングチーム」発足
2005年11月 外国人集住都市会議「規制改革要望書」
        自治体のサービス・事務に即した登録制度を要望
2005年12月 規制改革・民間開放推進会議「第2次答申」
        外登制度の見直し、関係省庁・自治体の在留情報共有、企業・学校に報告義務を盛り込む
2005年3月 閣議決定「規制改革・民間開放推進3か年計画」
        2006年度の「検討」項目とする。
2006年3月 総務省「多文化共生の推進に関する研究会報告-地域における多文化共生の推進に向けて-」
2006年6月 法務省:今後の外国人の受入れに関するPT
        「今後の外国人の受入れについて」
         →日弁連の意見書
        厚労省:外国人労働者問題に関するPT
        「外国人労働者の受入れを巡る考え方のとりまとめ」
        外国人労働者問題関係省庁連絡会議
        「『生活者としての外国人』問題への対応について
        外国人の在留管理に関するワーキングチーム
        「検討状況報告」
        経団連 「2006年度日本経団連規制改革要望-競争力と活力ある経済・社会の構築に向けて」
2006年7月 規制改革・民間開放推進協議会「外国人WG」
2006年7月 規制改革・民間開放推進協議会「中間答申」

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September 13, 2006

在留管理制度の改正論議を診る-01

改正議論のポイント

 政府の諮問会議や自民党、そして法務省と連携をとりつつも微妙にニュアンスを変えながら、在留管理制度の「改革」論議が、スピードアップで進められていることにお気づきだろうか。現在までに自民党や政府各省周辺で検討されている項目を大まかにまとめるておくと、表1のようになる。

    表1:在留管理制度として提案されているポイント

1.     在留状況の補足を強化する

    ア)     雇用状況の把握のため企業に報告義務付け

    イ)     公的健保・年金制度への加入状況を把握

    ウ)     転出届や世帯状況の把握

    エ)     日本語能力・生活能力(子弟の就学状況等)を

        在留資格審査時にチェックする。

    *ア~エの対象は特別永住者を除く外国人。

         (一般永住者、配偶者、定住者を含む)

2.     補足された在留状況情報を一元管理

    オ)新たなインテリジェントシステムで、外国人登録システムと

        入国・在留資格審査システムを一元化。

       カ)IC在留カードの発行(自治体・雇用する企業で活用?)

3.     入国管理局以外の行政機関との情報共有を図る

   キ)関係省庁・自治体が共用する在留データベースの構築

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