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August 30, 2006

【連載/夏休み企画1】改定入管法の問題点/すべての外国人から指紋を!? (5)

「自動化ゲート」で在日や日本人の指紋も採取
 「Jヴィジット」のシステムの対象は「外国人」とされているが、もちろん、コンピュータが外国人と日本人を区別するわけではない。もし制度を変更すれば、同じ情報システムを、日本国籍を持つ市民にも利用できる。
 今回のかいていでは、「Jヴィジット」と同時にもう一つ、「自動化ゲート」なるものが導入されることになっている。「自動化ゲート」は、頻繁に出入国を繰り返す海外渡航者の審査を省略化するために、あらかじめ審査した日本人や外国人にICカードを発行し、SuicaやPiTaPaといった鉄道の自動改札機のように、自動化された審査ゲートを空港に設けようというものである。
 日本人や、在日コリアンのような定住性の高い外国人を主な利用者として想定する「自動化ゲート」だが、こちらでも本人確認のために、毎回指紋をスキャンすることには変わりなく、随時、ブラックリストとの照合も行なわれることになる。採取された指紋データは、その後も、利用の停止を届けるか登録の有効期限を超えない限り、ホスト側のシステムで保管する。
空港に置かれる端末機こそ異なるものの、ホスト側のシステムはまったく「Jヴィジット」と一体化。別のシステムを導入するかのように受け止めるのは、まったくの誤解というべきだろう。
 外国人の指紋押捺を差別や差別を助長すると批判すると、かならず、日本人も対象にすればいいという意見を耳にする。今後どこまで自動化ゲートの利用者が増えるのかは分からないが、日本人も在日もすでに「Jヴィジット」の対象になっていると見るべきなのかもしれない。義務化こそされていないものの、日本を出入国する人々全員を対象にするシステムと制度が用意されることになる。ちなみに、米国のUSヴィジットを利用するために、二〇〇六年の三月から、日本人のパスポートにはICカードが内蔵されるようになった。ICカードと発行システムには日本人の指紋や顔写真が保管されている。こちらは純粋な技術論からみればまことに「不合理」なことに、外務省の所管するシステムであり、入管関係の情報システムと情報共有するためには、法令で規程を追加する必要がある状態だ。

テロ関与の恐れのみで拘束・国外退去
 そろそろ、与えられたスペースも尽きてきたが、この法案の第二のポイントである、テロ関係者と認定された外国人に対する予防措置についても触れておきたい。
明文化された規定としては「公衆等脅迫目的の犯罪行為(テロ犯罪)の予備行為又は…(中略)…実行を容易にする行為を行う恐れがあると認めるに足りる相当の理由がある者」と規定され、一読ではいったいいかなる範囲なのかさっぱり分からない。いかにも、状況しだいでいかようにも解釈できるものになっている。
 国会での法案審議では、予備行為の例として、海外のテロ行為に用いる物資の調達が挙げられている。「実行を容易にする行為」の例としては、テロやテロ組織に必要な資金の調達という行為が示された。あくまで例として示されたに過ぎず、これに限定されるとは限らない。しかも、さらに「恐れがあると認めるに足りる相当の理由がある者」と規定されているのである。このように、摘発の要件を広め、誤認しても事後に責任を問われない規定となれば、テロにこじつければ、なんの制約もなく捜査や身柄拘束ができることにならないだろうか。
 テロ関係者と認定するプロセスは、、公安調査庁、警察庁、海上保安庁、外務省が、それぞれの調査に基づいて要請し、最終的には法務大臣が認定することになる。入国管理局は、テロに対する調査能力や専門知識を持ち合わせていないとされ、テロ関係者を認定するプロセスでは関与しないということになりそうだ。

絶大な「誤認被害者」へのペナルティ効果

 今回の改定で追加された「テロ関係者」の退去強制要件は、在日と言われる「特別永住者」以外のすべての外国人が対象になる。しかも退去強制処分は刑事手続きではなく、行政処分である。「恐れ」や「相当の理由」といった極めて曖昧な文言で、認定範囲を規程しておきながら、本人や第三者の反論やチェックの機会が極めて限られ、とくに定住型の外国人には、絶大なペナルティになる。
 テロへの関与を疑われただけで入国管理局に収容されれば、そこには刑事手続きのように、逮捕状といった裁判所の関与もなければ、明確な拘束期間の上限もない。拘束しながら供述を引き出すことによって、芋ズル的な摘発につなげるには、極めて有利な状況であるが、それは裏返せば、誤認や冤罪の可能性が高まるということになる。
 誤認でひとたび「被疑者」となっても、収容されてから反論する以外ない。捜査権限も持たない入国管理局は認定の根拠やプロセスといった有効な反論に欠かせない情報、たとえば「相当の理由」の出所などを、提供するとはとても思えないのである。
 退去による解放が受け入れ難い者ほど、真偽不明でも当局の意向に沿った情報提供と引き換えに、拘束の解除を求めるようなケースを思い浮かべる方が、収容を受けた者の合理的な判断として、よほど容易いと思われるのである。
 実行以前の段階でも摘発できる予防的な性格は、何度も国会で審議されながら、かろうじて成立を免れている「共謀罪」に通じる内容となっている。国会では、共謀罪法案の審議に時間を取るために、入管法が早期裁決となってしまった皮肉も見られたが、当初、賛否を決めていなかった民主党は、二つの法案の類似性に程なく気が付いたことから反対に廻ったようだ。
 いったん、テロ関係者のレッテルを貼られれば、その外国人はどうなるかを想像していただきたい。長期の拘束や国外退去は、長年の努力で築いた日本国内での生活基盤を失わせる。それだけではない。送還先の本国でも捜査対象となり、さらに身柄の拘束を受けることだってあるだろう。また第三国への入国はことごとく拒否されるであろう。日本国内だけでなく世界中のどこにいっても正常な市民生活を阻害されることになりかねないのである。

終わりに
 イギリスの地下鉄やスペインの鉄道を狙ったテロ事件も、同国人が実行犯であり、当初は疑われたアルカイーダ関与も、当局による捜査の進展とともに否定されている。もし仮に、日本社会にテロの脅威があるとしても、不特定多数の一般市民を巻き込んだテロ事件のほとんどは、同国人によるもので、外国人のみがテロ関係者という説は到底成り立たない。しかし、為政者とマジョリティは、いつの時代でも国内の安全や治安に対する不安感を利用し、その原因が「よそ者の仕業」だと喧伝したがるものである。「外国人対策」は心地よく、都合よく、そしてすぐにエスカレートして社会を蝕む、――まるで薬物のようなものだ。
 米国のUSヴィジットに続いて、より徹底した「Jヴィジット」が導入される。その背後にある世界観は、このシステムをデファクトスタンダード(世界標準)として各国に広めるという「将来ビジョン」だ。そこでは、あなたが日本人でも、あなたの指紋や顔写真が、いずれかのエリアで、入国歴とともに採取され共有される。そんな国際社会をあなたは望み正しいと考えるのか。最後にまことに大きな話となって、これまでビザの問題ぐらいしか論じたことのない私には気恥ずかしい限りだが、今回の改定はそういうスケールから捉える想像力もまた必要とするのだと思っている。

(終わり)

(この原稿は、ひょうご部落解放(季刊) 6月号に掲載されたものです。発行/(社)ひょうご部落解放・人権研究所

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August 08, 2006

【連載/夏休み企画1】改定入管法の問題点/すべての外国人から指紋を!? (4)

指紋情報の保管期間
 「Jヴィジット」の導入目的が、もし仮に、空港や港の入国審査時に行なわれるブラックリストとの照合チェックだけに限定できるのであれば、審査が終わり入国した時点で、生体情報を廃棄してしまうことができる。過去に入管法違反などで退去強制された外国人の再入国を防ぐという意味でも、入国時のチェックが終われば、以後はもうスキャンした指紋情報は不要なはずだ。入国審査ブースの端末で即座に破棄してしまい、ホストシステム側には一切保存されなければ、情報の漏洩や不正利用、あるいは、もっとも危惧される国内外の機関への横流しといった乱用の恐れはグッと少なくなる。先ほど挙げた二つ目のポイント、「どんなに技術を駆使しても、漏洩と不正利用は起きるもので、起きたらどうするのかという対処方と、危ない情報は蓄積せず、必要な機能に限定すべきだという原則」をここで思い出していただきたい。
 実際、国内銀行の自動支払機システム(ATMシステム)では、いずれの銀行でも、銀行側のネットワークでは、まったく生体情報を保存も管理もしない方式が採用されているとのことだ。静脈形状のデータは、ホストコンピュータ内のデータベースには保存されておらず、利用者自身が持っているカードの中、つまり利用者の管理の及ぶ範囲にしか保存されていない。つまり、銀行のATMシステムでは徹底して避けられているのに、「Jヴィジット」は生体情報の保存管理に敢えて挑もうとしている。これは極めて稀有な挑戦だ。
 国会の法案審議でも保管期間は、比較的よく議論されていたポイントだ。議論を経て固まった政府の公式見解は、「利用目的と運用コストとのバランスを踏まえ、運用状況を見ながら内部の運用規則を設けるが、テロリスト等を利するため、保管期間の公表は行なわない」というものである。警察や公安の捜査情報管理やプロファイリングに詳しい方々は、これを評して「要するに半永久的に保存するということ」だという。
 近年、日本をはじめて訪れる新規入国者の数は、年間七〇〇万人あまりに及ぶ。このうち、一六歳以下の外国人を除くとしても六〇〇万人は下らない。外国人観光客の誘致拡大も政策目標とされるおり、一〇年もすれば、ほぼ日本の人口に匹敵する巨大な個人情報のデータベースが出来上がっていることだろう。個票の数では住基ネットワークをたちまちしのぎ、チョイととっておきましょうという規模ではないことは、容易にお分かりいただけよう。捜査機関からすれば、網羅する範囲が広いほど、魅力あるデータベースになるのは言うまでもない。

保存される指紋の利用目的
 次に、保存された生体情報は、いったい何に利用されるのか。政府や法務省が明言している利用方法を見てみよう。まず第一に、過去の入国データと比較検証して、不自然な点はないかどうかをチェックすることだ。これには二つのやり方があって、まずは、単純に氏名や生年月日で名寄せして、同じ名義の入国記録を集めるやり方である。これにより、パスポートの借用など複数の人物が、同一名義で入国や出国審査を受けていないかを調べることができる。もうひとつは、指紋情報や顔写真情報で検索をかけて、同一人物が偽造パスポートなど複数のIDで入国していないかどうかをチェックするということだ。
保存された指紋の第二の利用法が、犯罪者や容疑者の生体情報の提供や、遺留指紋との照合である。前述のように、国内人口を上回るデータベースとなれば、捜査当局にとってはぜひ利用したいものになるだろう。氏名や指紋などの属性で、「ある程度」特定すれば、警察や公安から刑事手続きに則って依頼されれば、刑事訴訟法に規定される捜査機関が持つ照会権限によって、入国管理局は保管されている情報を提供できる。捜査機関に提供された指紋情報は、さらに国際手配など外交ルートや警察間の情報ルートにより、国外に提供される可能性がある。また、入管法には、海外の出入国管理当局との協定に基づいて情報提供ができるという規程もある。今後二国間協定などが成立すれば、入国管理局からもダイレクトに、他国の政府に提供される道が開かれる。
政府は、入国管理局のデータベース全体が内外の機関に対して提供されることはないという釈明をしている。しかし、戸籍や住民基本台帳の閲覧では、捜査当局による照会手続きのルールや制約が長年積み上げられてきているが、出入国データにはそれがない。一度に何人分の情報が提供できるのか、その上限すら見当がつかないのであり、やり放題の懸念が付きまとう。最低限のこととして、警察や公安への情報提供のルール、とくに開示手続きのありかたや、提供される個票の数や項目範囲については早急な策定が求められる。

外登データ含め、入管内の情報が一つに
 今回の改定と並行して、法務省や入国管理局が管理する外国人のデータは、しだいに結び付ける作業が進んでいる。出入国記録、ビザや在留資格の審査記録、違反調査の記録、そして外国人登録といった各種のデータを入国管理局は持っている。これまで一度に閲覧することが難しかったこうした各種の記録だが、もはや仕組みさえ整えれば、いとも簡単に結び付けることができるだろう。たとえば、入管法に依拠した入国審査や在留資格審査の個人情報ファイルと、外国人登録法に依拠した在留状況ファイルは、たとえ電磁的にはべつのコンピュータに保管されていても、プログラム次第で端末機画面にあたかも一体のものとして表示することは難しくない。そうなれば、外国人登録で指紋押捺を廃止した意味は、もはや無に等しい。

(続く)

(この原稿は、ひょうご部落解放(季刊) 6月号に掲載されたものです。発行/(社)ひょうご部落解放・人権研究所

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August 05, 2006

仕事の間にレバノン情勢をみる

 ちかごろ楽しみにしているのは、お仲間同士で外国人政策に関する意見が交換している月一回のミーティングだ。とはいえ、夏本番を迎えたこの時期、ライター稼業がお盆前進行のラッシュに見舞われ、人間を辞め頭脳付きタイプライターと自らを評しながら、パソコンに向かう日々の中、先日も万難を「棚上げ」にして出席した。
 すぐに夜も更けていくその席上で、アムネスティジャパンのスタッフが、明らかに疲労困憊の様子を見せている。あきらかに「レバノン疲れ」だ。お役目だからと言ってしまえばそれまでだが、口だけでもせめてと労をねぎらう声をかけた。
 HDビデオで貯めては観ているニュース23で、報道のあり方を論じていたなあ。昨晩みたけど放送日は覚えてない。田中宇のメルマガでもそんなことをいっていたなぁ。今朝のNHKで、ガソリン価格の高騰を受けて「省ガソリン運転」のしかたを紹介していたが、そんなこんなでちょっと違和感。
 仕事の合間に何度かメールのやり取りをしたことのある、イスラエル在住の山森みかさんのHPを熟読する。国内のニュースになれてしまうとイスラエルよりと感じられるかもしれないが、あっしは彼女の感覚はなんとなく信頼している。
 そんなこんなで、ここで紹介しておきたくなりましたん。

非日常の国イスラエルの日常生活 (森山みか)

次期シリーズ予告
 現在夏休み企画で、入管法改正の復習をしているところですが、その次は外国人登録にとって変わる新制度のホットな議論を追いかけてみようと思っています。あー、予告しちまったい。

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