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August 08, 2006

【連載/夏休み企画1】改定入管法の問題点/すべての外国人から指紋を!? (4)

指紋情報の保管期間
 「Jヴィジット」の導入目的が、もし仮に、空港や港の入国審査時に行なわれるブラックリストとの照合チェックだけに限定できるのであれば、審査が終わり入国した時点で、生体情報を廃棄してしまうことができる。過去に入管法違反などで退去強制された外国人の再入国を防ぐという意味でも、入国時のチェックが終われば、以後はもうスキャンした指紋情報は不要なはずだ。入国審査ブースの端末で即座に破棄してしまい、ホストシステム側には一切保存されなければ、情報の漏洩や不正利用、あるいは、もっとも危惧される国内外の機関への横流しといった乱用の恐れはグッと少なくなる。先ほど挙げた二つ目のポイント、「どんなに技術を駆使しても、漏洩と不正利用は起きるもので、起きたらどうするのかという対処方と、危ない情報は蓄積せず、必要な機能に限定すべきだという原則」をここで思い出していただきたい。
 実際、国内銀行の自動支払機システム(ATMシステム)では、いずれの銀行でも、銀行側のネットワークでは、まったく生体情報を保存も管理もしない方式が採用されているとのことだ。静脈形状のデータは、ホストコンピュータ内のデータベースには保存されておらず、利用者自身が持っているカードの中、つまり利用者の管理の及ぶ範囲にしか保存されていない。つまり、銀行のATMシステムでは徹底して避けられているのに、「Jヴィジット」は生体情報の保存管理に敢えて挑もうとしている。これは極めて稀有な挑戦だ。
 国会の法案審議でも保管期間は、比較的よく議論されていたポイントだ。議論を経て固まった政府の公式見解は、「利用目的と運用コストとのバランスを踏まえ、運用状況を見ながら内部の運用規則を設けるが、テロリスト等を利するため、保管期間の公表は行なわない」というものである。警察や公安の捜査情報管理やプロファイリングに詳しい方々は、これを評して「要するに半永久的に保存するということ」だという。
 近年、日本をはじめて訪れる新規入国者の数は、年間七〇〇万人あまりに及ぶ。このうち、一六歳以下の外国人を除くとしても六〇〇万人は下らない。外国人観光客の誘致拡大も政策目標とされるおり、一〇年もすれば、ほぼ日本の人口に匹敵する巨大な個人情報のデータベースが出来上がっていることだろう。個票の数では住基ネットワークをたちまちしのぎ、チョイととっておきましょうという規模ではないことは、容易にお分かりいただけよう。捜査機関からすれば、網羅する範囲が広いほど、魅力あるデータベースになるのは言うまでもない。

保存される指紋の利用目的
 次に、保存された生体情報は、いったい何に利用されるのか。政府や法務省が明言している利用方法を見てみよう。まず第一に、過去の入国データと比較検証して、不自然な点はないかどうかをチェックすることだ。これには二つのやり方があって、まずは、単純に氏名や生年月日で名寄せして、同じ名義の入国記録を集めるやり方である。これにより、パスポートの借用など複数の人物が、同一名義で入国や出国審査を受けていないかを調べることができる。もうひとつは、指紋情報や顔写真情報で検索をかけて、同一人物が偽造パスポートなど複数のIDで入国していないかどうかをチェックするということだ。
保存された指紋の第二の利用法が、犯罪者や容疑者の生体情報の提供や、遺留指紋との照合である。前述のように、国内人口を上回るデータベースとなれば、捜査当局にとってはぜひ利用したいものになるだろう。氏名や指紋などの属性で、「ある程度」特定すれば、警察や公安から刑事手続きに則って依頼されれば、刑事訴訟法に規定される捜査機関が持つ照会権限によって、入国管理局は保管されている情報を提供できる。捜査機関に提供された指紋情報は、さらに国際手配など外交ルートや警察間の情報ルートにより、国外に提供される可能性がある。また、入管法には、海外の出入国管理当局との協定に基づいて情報提供ができるという規程もある。今後二国間協定などが成立すれば、入国管理局からもダイレクトに、他国の政府に提供される道が開かれる。
政府は、入国管理局のデータベース全体が内外の機関に対して提供されることはないという釈明をしている。しかし、戸籍や住民基本台帳の閲覧では、捜査当局による照会手続きのルールや制約が長年積み上げられてきているが、出入国データにはそれがない。一度に何人分の情報が提供できるのか、その上限すら見当がつかないのであり、やり放題の懸念が付きまとう。最低限のこととして、警察や公安への情報提供のルール、とくに開示手続きのありかたや、提供される個票の数や項目範囲については早急な策定が求められる。

外登データ含め、入管内の情報が一つに
 今回の改定と並行して、法務省や入国管理局が管理する外国人のデータは、しだいに結び付ける作業が進んでいる。出入国記録、ビザや在留資格の審査記録、違反調査の記録、そして外国人登録といった各種のデータを入国管理局は持っている。これまで一度に閲覧することが難しかったこうした各種の記録だが、もはや仕組みさえ整えれば、いとも簡単に結び付けることができるだろう。たとえば、入管法に依拠した入国審査や在留資格審査の個人情報ファイルと、外国人登録法に依拠した在留状況ファイルは、たとえ電磁的にはべつのコンピュータに保管されていても、プログラム次第で端末機画面にあたかも一体のものとして表示することは難しくない。そうなれば、外国人登録で指紋押捺を廃止した意味は、もはや無に等しい。

(続く)

(この原稿は、ひょうご部落解放(季刊) 6月号に掲載されたものです。発行/(社)ひょうご部落解放・人権研究所

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