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July 28, 2006

【連載/夏休み企画1】改定入管法の問題点/すべての外国人から指紋を!? (3)

一対一〇〇万の指紋照合
 議論を難しくするひとつの原因になっているとはいえ、やはり、IT技術に関する考察も最低限はしておかなければならない。まず二つのポイントだけは指摘しておきたい。ITといえども所詮は技術であり道具に過ぎない。技術論が苦手という方も、ぜひ次の二つだけは、頭に入れておいて頂きたい。
 まずひとつは、本人確認や指紋の照合は、人的な作業と同じく一〇〇%を保障するものではないということである。二つ目は、どんなに技術を駆使しても、漏洩と不正利用は起きるもので、起きたらどうするのかという対処方と、危ない情報は蓄積せず、必要な機能に限定すべきだという原則である。
 まず、指紋データの照合の精度や確度という観点を考えてみたい。指紋データだけで要注意人物がパッと見つかるのか。じつは、かなり心もとない。犯罪捜査に詳しい方々は一様に「指紋の照合だけで容疑者が一人に絞れることは稀」だと指摘する。どうやら、刑事ドラマのワンシーンのように上手くいくものではないらしい。もっとも犯罪捜査なら、「指紋が非常に似ている人物」が数人に及ぼうとも、さらに捜査して、絞り込めばよいのだからこれで十分なのだ。むしろ、容疑者となる人物がリスト中にいるのにヒットしない、「チェック漏れ」がおこらないように、緩やかな類似でも同一だとヒットするように設定しておくべきなのだろう。
 ところが、一日に数十万人が通過する空港の入国審査で使うとなると、そう簡単ではない。不確実な照合なら多数の入国者を引き止めてしまうことになるからだ。ましてや、引き止めたからといって、その外国人と言葉も通じる保障はない。大方は、引き止められた方にはもちろん、引き止める側にも不幸で無意味な時間が待っている。成田空港で一日に引き止められるのは、五人だろうか。それとも二〇人だろうか。まさか毎日一〇〇人も空港で引き止めて「捜査」することはできまい。
 技術的にいえば、生体認証がもっとも得意とするのは、「1対1の照合」――もともと同一であることが期待される二つのデータの異同を判別するだけだ。パソコンの起動ロックはもちろん、銀行のATMやオフィスビルの入退管理システムにも利用されている。たとえ数万、ときには数十万人が対象になるとはいっても、最近流行している指紋認証は、すべてこの意味での照合である。
 他方、ある指紋データを、ブラックリストのような、多数の指紋データの全てと比較し、類似する指紋を見つける作業は「1対Nの照合」と呼ばれ、前述の「1対1の照合」とは次元が異なる。照合結果の精度を保つことはかなり難しく、ブラックリストの規模が大きくなれば、その分誤認の可能性は高まる。「Jヴィジット」で用意されるブラックリストは、前述のようにとりあえずは八〇万件、将来的には一〇〇万件や二〇〇万件になるのかもしれない。一〇〇万の指紋の中から、同一の指紋を見つけるのは、現代のIT技術をもってしてもかなり次元が異なる。自動的に、厳密な意味での同一性を確認することができるのかは怪しいところである。
 前述のように、犯罪現場の遺留指紋なら、「似ている」指紋をいくつか選び出せれば十分に「役立つ」のだが、入国審査の場合、その場で同一人物であることを断定し、入国拒否という不利益処分をしなければならない。もし、あなたが何ヶ月も前から計画した観光旅行に出かけ、このようなシステムで入国を拒否されたなら、心当たりもないのに、ひと騒ぎもせずに「しょうがない」と諦められるだろうか。

ヒット率と見逃し率は常にバーター
「1対Nの照合」では、誤認率が0%でない以上、指紋情報を「同一とみなす基準幅」を多少狭めておく、運用上の「調節」が必要になる。しかし、ヒット率を下げるよう調節するということは、見逃す可能性を高めるということである。スムーズな入国審査を取るのか、危険人物の入国を未然に防ぐか、ジレンマを抱え込まざるを得ない。「水際で素早く排除」なるスローガンは、もともとかなり危うい。
 IT関係者の中には、最新技術ではかなりの精度が得られることを強調する者も少なくない。とはいえ、そうした見識をよく聞いて見ると、いずれも指紋情報をスキャン(採取)するところから技術レベルをそろえるという前提で論じている点に注意したい。過去にインクや墨で採取した指紋や、どうやって採取したのかもわからない、海外から提供される指紋情報を活用するという、応用シーンを無視した議論であるように思われるのである。広く連携し、過去の「情報資産」を活かそうという以上、そう簡単に最新技術で水準をそろえるわけにはいかないことも、今日の情報システムの常識なのである。

効用はリピーター対策に限定か
 実際本家USヴィジットでも、これを活用して、テロリストが検挙されたという事例報告を見つけることはできない。カナダに定住したシリア人が、テロリスト扱いをされて本国に送還されてしまった誤認事件など、誤認ばかりが聞こえてくる状況に陥っている。こうした被害者による国を相手取った訴訟の今後の行方も注目されるところだ。
 結局、ブラックリストとの照合による水際効果は、ブラックリストの大半を占める過去の入管法違反者の再入国を防ぐ「リピーター対策」となるのではないだろうか。指紋の採取も入国管理局が行ない、データの質も比較的コントロールしやすく、もっとも「実用」に向きそうなのだ。

(この原稿は、ひょうご部落解放(季刊) 6月号に掲載されたものです。発行/(社)ひょうご部落解放・人権研究所

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July 23, 2006

【連載/夏休み企画1】改定入管法の問題点/すべての外国人から指紋を!? (2)

米国では対象外の定住外国人も義務化
 確かに今回の義務化では、いわゆる在日である「特別永住者」は除外されている。とはいえ、一般の永住者をも含む広汎な外国人が対象になっていることに変わりはない。在日以外の永住者の数は、この一〇年間に五倍と急増しており三五万人となった。三~四年後に在日の数を上回るのは確実な情勢である。かつて、定住外国人の大半が在日コリアンで占められた八〇年代以前の状況から、すでに構成は様変わりをしているのである。
 米国のUSヴィジットでは、永住者はもちろん、職業人や留学生といった長期滞在者をはずし、あくまで一時的な入国者のみを対象にしている。これに比べて「Jヴィジット」は、射程を広げた強化版となっている。
 全廃からわずか六年しかたっていないのに、再び、ほぼ全ての外国人から指紋を取る。二世からも三世からも永続的に取り続けようというのである。共生という理念への配慮は微塵も感じられない。

ブラックリストの中味
 なぜ「指紋」が選ばれたのか、現在用意できるブラックリストのデータを考えると、すぐに合点がいく。ブラックリストには、各国警察間における情報の共有化を進めているインターポール(ICPO、国際刑事警察機構)から得る国際手配者の指紋リストを入れる。警察庁によれば、その数は現在約一万数千件。さらに、入国管理局も、過去の退去強制処分者の指紋リストを持っており、これが八〇万件ほど。あとはアフガニスタンのタリバン関係者など、国連でテロ組織の関係者と指定された人物で、これは極僅かだ。要するに現状では八〇~八五万件程度の指紋データベースが用意されることになると見られる。
「Jヴィジット」で指紋が重視されるのは、これらブラックリストとして集められる照合可能な生体情報は指紋情報しかないからである。今後を考えても、国際機関や他国の警察・公安機関が交換する情報で、静脈形状など、他の採取しやすい生体情報が流通する見込みはない。顔写真や指紋に頼らざるを得ないというわけだ。
実際にブラックリストとなるのは、テロリスト情報ではなく、一般犯罪に関する情報や、入管法違反者の情報ということになる。もっとも、テロリストやその関係者なる人物のデータ、とくに指紋情報が、そう簡単に入手できるとも思えず、量的にテロリストが大きな比重を占めることは、将来もないだろう。
 いったいこのシステムの何処が『テロ対策』なのか?いっそ、法改定の本来の目的を、テロ対策から、一般犯罪や入管法違反の抑止に切り換えた方が内実にふさわしいと思われる。もっとも、それでは法の改定も予算獲得も難しくなってしまうだろう。

(この原稿は、ひょうご部落解放(季刊) 6月号に掲載されたものです。発行/(社)ひょうご部落解放・人権研究所


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July 21, 2006

【連載/夏休み企画1】改定入管法の問題点/すべての外国人から指紋を!? (1)

入国審査支援システム「Jヴィジット」と「テロ関係者」の予防措置

 二〇〇六年五月、小泉政権最後の通常国会もまだ中盤というところで、出入国管理法の改定案は国会で可決成立した。この改定の骨子は、「テロとの関与が疑われる外国人を予防措置的に拘束し退去強制できる」とするとともに、「生体認証技術を活用した入国審査支援システムを二〇〇七年度中にも導入する」ことで、テロ対策として政府と与党は導入を急いでいた。
 新たな審査支援システムを、ここでは米国のUSヴィジットに倣い「Jヴィジット」と呼ばせていただく。これは、日本に入国するほぼすべての外国人に、指紋と顔写真の採取に応じることを義務付けるものだ。
 この改定でまず疑問に思うのは、二〇〇〇年に廃止されたばかりの指紋押捺制度が復活したことである。とくに、わたしもその一人だが、押捺廃止運動に少しでもかかわった者なら、そう感ぜずにはいられない。なぜ歴史的な経緯が、これほど軽々と無視されてしまうのか。予防措置は、同じ国会で成立が見送られた「共謀罪」を、より粗暴な形で先取りするものであるし、「Jヴィジット」は、政府内あるいは政府間で連結が進む個人情報に関するシステムは、いかなるものであるべきかという問題そのものであるといえる。改定全体を吟味してみると、在留資格の基準や、退去強制の理由を微調整してきたここ数年の改正とは、明らかに性質が異なる。

 今回、私自身は、いわゆる外国人支援グループのネットワーク団体の一員として、人権派諸団体間の勉強会に参加し、改定に反対する立場から議員に対する働きかけを行なっていた。この間に積み重ねてきた議論を踏まえ、本稿では、まず今回の改定の問題点をご紹介することに務めながら、さらに、単なる入国管理や外国人政策に固有ではない重要問題にも、できるかぎり私本来の守備範囲を「越境」して、踏み込んでみたいと思う。

水際での照合で入国拒否

 まず、新しく導入される入国審査システムから検討してみたい。前述のとおり、二〇〇七年度中に導入されることになる新しい入国審査支援システムは、空港や港の入国審査ブースに、デジタルカメラと指紋スキャナーを設置しておいて、入国希望者から生体情報を採取するものである。
 最近渡米したことのある方はご存知であろうが、米国で9.11テロ後に導入された入国審査システム「USヴィジット」とほぼ同様のシステムで、日本もこれに追随することになる。いわば「Jヴィジット」というわけだ。米国を訪れたことのある方なら、いちいち撮影され指紋を採取されることを、不快に感じたことがある方が多いだろう。
 USヴィジットや「Jヴィジット」で、採取された生体情報は、まず入国審査の時点で、ブラックリストにある指紋データとの「照合」に利用される。もしヒットすれば、審査官は入国を拒否することになる。入国させることなくすぐに帰路に就かせることもできるし、もし、もっと当局が捜査をしたいと思えば、お帰り願うまえに、収容し身柄を拘束した上で捜査をする(ことができる)。

指紋押捺廃止後六年で復活

 指紋の採取は、戦後の在日コリアン対策として導入された外国人登録から、一九八〇年代からの押捺拒否の運動を経て、二〇〇〇年に完全廃止されたばかりである。
 指紋押捺廃止運動が高揚を見せたのは八〇年代。「歴史」というほど遠い昔の話しではないだろう。当時学生だった私も、知人だった中学生の母親が押捺を拒否。告発をさせまいと地元の役場に駆けつけた経験がある。運動のモチベーションを大いに支えたのは、理屈以前に、外国人登録法により一六歳ではじめて指紋押捺を迫られる若者とその親が抗議する姿であり、彼らを支えなければならないとする、義務感に近い感覚であった。拒否運動の最前線では、運動側ばかりか役場の職員にさえも、国籍や立場を超えてこの感覚が広く醸成されていたように思う。
 円高でブームになり始めたばかりの海外修学旅行や留学を断念させ、当局の嫌がらせとしか言いようのない逮捕者も出しながらの運動であったが、一九九三年には在日コリアンをはじめとする永住者の指紋押捺が廃止。次いで二〇〇〇年には、外登法から指紋押捺制度が全廃されたばかりだ。指紋押捺制度の全廃は、この国における外国人制度の歴史の上で、数少ない運動の成果であり、共生という理念の旗印であるように思う。

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【連載予告/夏休み企画1】改定入管法の問題点--予告

暑中見舞い申し上げます。というのもどうかと思うぐらい関東以西は、息つくひまもないくらいの豪雨が続いています。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

とはいえ、きっと来週からは梅雨も明け、5月から続いていた長雨シーズンも終わり。猛暑になると予想されます。
このところの気まぐれな更新で、なおかつ、一部の「入管マニア」を除けば、いったいなんのことやらわらない内容が続いてしまっていました。反省してます。

そこで、日ごろ忙しいみなさまでも、ちったあ、腰を落ち着けて読んでいただけることを夏休み企画としまして、少し、マニア度を下げつつ、まとまった量の原稿を、ありネタからご紹介していこうと思います。幸い、この間にもお仕事はさせていただいておりまして、原稿がだいぶ貯まっているところでもあります。
仕事しいてたんですよー。
(それを伝えるのがブログじゃないのか、なんのためにブログを出しているのか、という、まことにもっともなご批判が聴こえてきそうですね)

しばらくは、3日に一度程度の更新頻度で、いけるところまでやってみようと思いますので、よろしくお願いします。

まえふりをしておきますと、まず第一弾はは、件の入管法法改正についた原稿からいってみたいと思います。
タイトルはそのままベタに、「改定入管法の問題点-すべての外国人から指紋を!?」です。

なお、この原稿は、とある方からお取次ぎ・ご紹介いただいた、(社)ひょうご部落解放・人権研究所が季刊で発行する機関紙「ひょうご部落解放」の2006年6月号に掲載しているものです。今回の連載は、編集部のご好意で個人サイトでの掲載のご了解もいただいたものです。お急ぎでご入用だとか、ぜひ冊子でと、おっしゃってくださる方は同研究所のサイトよりご注文ください。

6月上旬に書いたものですので、国会終了後に、法務省をはじめとする政府や与党が発表している、外国人受け入れを巡る議論の動向や、企業による報告制度や在留カードをはじめとする外国人登録制度の改正論議など、その後の議論は含んでおりません。法案が審議されていた時点で考えていたことや、いろいろな方々に教えていただいたことをまとめてみたものです。

なにせ、掲載誌の発行元が~研究所ですから、ちょっと硬めに書かなくっちゃなという気は使っています。いつものようにおちゃらけたところのない文体ではあります。とはいえ、なにもイミグレ関係のニュースを常に追っている人たちが読者ではありませんから、内輪受け狙いもなく、だれにでも読みやすくしたつもりです。成功しているでしょうか。

では、はじまります。

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