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October 20, 2005

フランスの多文化・抑圧状況がうかがえる,アラブ系若手女性活動家の半生記

■書評「自由に生きる――フランスを揺るがすムスリムの女たち」
ルーブナ・メリアンヌ著・堀田一陽訳
(社会評論社・2000円+税)

 本書はフランス生まれのアラブ人2世の若手女性活動家が書いた半生記である。といっても著者のルーブナは1978年生まれ。まだ半生記というには早すぎるかもしれない。それでも彼女は、1998年高校生運動のリーダーの一人として、パリに3万人、全国で50万人のデモを繰り広げ、半自主差別組織『SOSラシスム(SOS人種差別)』に加わり、その闘志というかスポークスマンとして才能を発揮している人物。「売女でもなく、忍従の女でもなく」をスローガンとしたアラブ系女性の運動でも先頭に立っている。
 少女時代の1980年代。当時のフランス思想界といえば、豊かで成熟した多文化社会を目指した気風が生み出す「共生の論理」の時代だった。そのエッセンスは和訳されて日本にも伝わり、当時大学生だった私も魅了されたものだ。しかし、訳者の堀田氏が解説によれば「その内実は社会から分離された小集団が社会の片隅に寄り集まっているに過ぎな」かったのだという。じっさい、著者は自らが育ったアラブ人が集住する地区からなんとか脱出を試みる。最初はリセへの進学によって、そして学生運動家として。
彼女の挑戦は、アラブ人コミュニティ内部の閉塞感への挑戦である。それゆえに、その閉塞性に加担しているコミュニティとフランス社会の双方が批判の対象となる。政治的には、反ルペンであるのはもちろんだが、フカーフを巻いて通学できることが、多文化社会の前進やムスリム系住民の地位向上だとする議論についても安直だと手厳しく批判する。保守的なイスラム原理主義も、共存を唱えるながらも「良心的」なイメージで点数稼ぎをしようとする政治家も、彼女にとっては敵なのだ。
人口約6000万人程のフランスには、500万人のムスリムが暮しているといわれる。人口比率だけではない。歴史の厚みや宗教的な状況など、日本とはかなり違いがあるはずのフランスの状況を我々はどれだけ知っているだろうか。他方で、80年代半ばから国内に増えたニューカマーのコミュニティでも2世が活躍の機会をうかがう時期がそろそろ来るはずであることを、もっと意識すべきではないのか。
本書のような若手活動家の記述を読むと、私のような運動好きはかなりの活力をもらうことができるものだ。読み進めながら、表紙の顔写真を何度も確かめるように眺めた。そして、もっとフランスや他国の状況への目配りを利かしながら、国内での運動の新たな機軸の発見に活かすような努力をしたいものだと思うのだった。

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