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March 18, 2005

進むeパスポート計画 -1

 eパスポートや指紋を初めとする生体情報を使った出入国管理システムの導入計画について取り上げている記事を、3月13日、日曜日の朝日新聞朝刊は1面で掲載している。このブログサイトにしては珍しく外国人だけでなく、日本人も対象にした管理システム。しかも一般市民のバイオ情報をIT技術で扱うだけに、その是非や利用法には慎重さが求められる。
 朝日新聞の記事は、そのバイオ情報の利用がどこまで許されるのかについて議論を喚起する内容になっていたが、このブログでも数回にわけて、やはりのあたりを中心に書いてみたい。

1.「eパスポート」って何

 そもそも「eパスポート」とはなんだろう。
 次の図は、3月初旬に東京で開かれたICカード業界の展示会で、某システムメーカーの展示からの引用したものだ。外見上、パスポートはまったくこれまでのものとまったくかわらない。ただ、そのあるページにICチップと電波を送受信するためのアンテナが仕込んであるというものだ。


図「eパスポート」





図1:eパスポートの中に非接触ICチップ
JR東日本のSuicaなどで用いられている非接触タイプのICチップが用いられ、チップ内のデータは電波を使ってリーダーに転送される。


 まず、パスポートを作るときに、顔写真、指紋や手のひらの静脈の形状といった、所持者の身体的なデータ(バイオデータ)を採取する。後日調製されるパスポートにはICチップ内には、氏名や生年月日といった基本的な個人情報とあわせて、このバイオ情報が保存される。
 空港や港の入国管理局の審査ブースで、カードリーダーにかざす読み出される仕組みになっている。写真1は、審査ブースに置かれると想定される端末機の画面に、ICカード内の情報が表示されたところである。


eパスポートの認証画面(写真)










写真1:eパスポートの認証画面
左の指紋と顔写真はICチップ内に保存されたもの、右の指紋と写真は新たに採取されたもの。緑色の文字で「CONFIRMEL(=一致)」と表示され、両者が合致したことがわかる。


 eパスポートのまず第一の機能は、このように、パスポートに記載されている人物とブースに現れている人物が同一であるかどうかを確認することである。ICチップは、いったんデータを入れれば書き換えられないようにする。こうすれば、たしかに偽造は格段に難しくなる。
 他人がeパスポートを申請したり、eパスポートの調製システムを保有して、勝手に作っちゃうような大掛かりな不正にはもちろん対処できないが、調製以後は変造が難しくなる。現実的には、申請しバイオデータをスキャンしてから調製される間に偽造の機会は限られることになると見られる。eパスポートの第二の機能は、偽造パスポートの追放である。
 そして第三の機能は、もし、この認証システムを、もしホストサーバーにつながなければ実現しないのだが、これまでの入国履歴や渡航歴の蓄積である。日本だけでなく、米国やタイやオーストラリアといった他国とデーターを交換すれば、導入国における渡航歴はバッチリ集められるということになる。さらに要注意人物であるとか、なにか追加情報を入力するシステムにすれば、そうした負荷情報も、各国当局が参照できるようになるだろう。

 以上3つの機能について紹介したが、これを読んで、パスポートと所持人の一致を確認するためには、ホストサーバーはまったく不要だということに気づかれただろうか。上記の第一と第二の機能ではもちろん、ホストにデータ収集する第三の機能にとっても、もし、クレジットカード会社やカード屋さんが言うようにICチップそのものが変造されたことがないとするなら、やはり必要がない。
 申請時にパスポートセンターで、写真を撮影し、指紋や静脈形状はスキャンされる。パスポートに仕込むICチップに格納することさえ済んでしまえば、ネットワーク上でやり取りする必要はまったくない。発行システムのコンピューターから、ネットワークやデータベースに吸い上げる前に破棄して、捨て去ってしまっても一向に差し支えないのである。
 冒頭で紹介した、朝日新聞の記事では、バイオ情報の利用範囲がどうなるのかを、もっと議論すべきだという論調だった。もし、eパスポート本来の機能だけなら、ホストコンピューターのデーターベースにバイオ情報を蓄積する必然性は全くない。逆にいえば、もし、パスポートを発行後も、ICチップ内以外のバイオデータをすべて破棄しないとすれば、本来のeパスポートとは異なる意図があるか、あるいはICチップが偽造変造されることを前提にしたかのどちらかである。
 この新聞記事は、このことを知ってはいるのだろうが、強調していなかった。そこで、今回は「eパスポート」の仕組みとあわせて、「パスポートのICチップ以外にバイオデータを保存する必要はない」という論が十分成立することを覚えておいて頂くことにして、さらに論を進めることにしたい。

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March 15, 2005

日比FTA/やはり介護労働者が本命

 ある団体の機関誌の特集記事、「日比FTA」の製作に、一枚かむ事になって、年明けから少しずつ調査をしてみた。看護と介護のふたつの分野で専門的な技量のあるフィリピン人労働者を国内に受入れるという両国の合意が、昨年11月に公表されてはいるが、その具体像は「協議中」とのことでいまだ明らかになっていない。この時点では、今後の流れを大胆に推測するしかないのだが、やはり本命になるとすれば介護の分野だと思われる。

1.フィリピン側の送り出し環境

 そう思われる最大のポイントは、各行政機関の財政難のアオリをまともに受けて四苦八苦している各施設の経営事情と、フィリピンの介護労働者の「輸出」実績である。
 これまで家事労働として、あるいはボランティアに近い形で、行なわれていた介護を事業に昇格させようという介護保険の狙いが定着するかどうか。この移行期を支えた労働者の次の世代が、上手く育つかどうかがとっても微妙な状況なようだ。比較的年齢層の高く資格よりもある種の志に支えられていた第一世代から、資格を取り職業として介護に臨む第二世代への移行には、主に待遇面から大きな難点を抱える。

図表:フィリピンのCare Giver 養成・送り出し実績

 他方フィリピンには、カナダや台湾やイスラエルをはじめとする各国へ、介護労働者をこの10年間に送り込んできた実績があり、「Care Giver」と呼ばれる介護労働者の養成所が盛況だという。そして、養成した人数が送り出せている人数をかなり上回っている…。

 ほかにも、介護関連の状況分析や統計。入管法とカラムような論点にとどまらず、この受入れをだれがどういう勘定で担うのかなど、手を広げた記事になっています。、
 オンラインでの購入というわけにはいかないが、ご興味のある方は、先日発行のこの機関誌「M-Net」を入手してくださいね。安いから。

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M-ネット2005年2-3月号

■特集 日比FTA
 *座談会/どうなるフィリピン看護・介護労働者の導入

 *人口減少時代の外国人受入れ政策とは?
  -第四次出入国管理政策懇談会報告書を考える- 鈴木江理子
 *フィリピン人看護師・介護士受入れにNGOから政策提言を! 早崎直美

■トピックス
 *人種差別撤廃法要綱試案Ver.2の提案にあたって 旗手明
 *HIV/AIDSとともに生きる在日外国人との共生・支援のあり方を考える
稲場雅紀
 *一斉出頭者の収容から強制送還・法務省の対応について 白取芳樹

■気になる新聞記事(04年11-12月分)
■イベント案内

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1部300円(A4版、24頁、発送料別途)で販売しています。

ご注文は、お名前・送付先・ご注文部数を移住連事務局までメールかファックスでお送りください。折り返し、冊子と振り込み用紙を送付いたします。お支払いは、到着後に振り込み用紙をご利用のうえ、郵便局よりお願いします。

移住連

M-ネット(Migrant-ネット)

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March 05, 2005

戸主制廃止:韓国民法改正関連Webレビュー

 今週半ばに、2008年から戸主制を廃止するという民法改正の動きがお隣り、韓国国会であった。
 このような動きがあることをまったく知らなかったので、まあ、ネット上で検索しながら、付焼刃でフォローしてみようと思った次第。せっかくだから、まあ、レビューということでまとめちゃうことにしたという、今回はまったくお手軽な企画。

1、「戸主制度」の廃止で何が改正されたのか

 まず、国内各新聞社の報道を横並びにしながら、基本的なところをおさえてみよう。そもそも、韓国の戸主制度とはどんなものだったのか?

「戸主制は、戸籍上の家長(戸主)を、父から息子、孫へと父系優先で継承し、子は父親の戸籍、妻は夫の戸籍にそれぞれ入ることなどを定めた民法の諸規定。」(読売)
「『一家の系統を継承した者』として戸主を規定。父親が家父長として大きな権威を持つと同時に戸主継承は父親から息子、男の孫など男系が優先され、妻や嫁は男性の下で『内助役』を強いられてきた。」(朝日)

 なんだか、わかったようなわからんようなのは、数行じゃあしょうがないとして、さっそく、より具体的な改正のポイントを列挙してみよう。

①戸主の登録 → 廃止
②子供は父親の姓を名乗る → 結婚時の同意があれば妻の姓も可
③再婚家庭の子の姓は実父のもの → 家裁の許可を得て変更可

 さらに戸主制というわけではなかろうが、次の2規定も廃止となったようだ。

④女性のみ6か月間の再婚禁止規定 → 廃止
⑤同姓同本男女の結婚を禁止 → 廃止
国内各紙の報道 読売 3/2、 毎日 3/3、 朝日 3/2

2.遺産相続の規定はどうなったの?

 どの記事も触れていないが、相続関係の規定は変更になっているのだろうか。

 1990年の改正で、子どもと妻がいる場合には、子ども1人当たりが2、妻が3の比率で、均等割にるのだそうだ。たとえば子どもが2人いる核家族の夫が死亡すれば、その遺産を、子どもは2づつで合計4、妻は3という割合で分けることになる。子どもが何人だろうが、遺産の1/2を受取る日本や北朝鮮に比べると韓国の妻は不利になっていたのだが…。

 現状については

「相続に関する相談事例」(同胞ネットワーク)

 改正動向を遡るには、次の調査研究論文の冒頭で解説されている。

 岸昭道「韓国ナクトン江流域農村生活文化の研究 その2」1999.09.15


 この論文によれば、戸主がすべてを相続する制度が解放後しだいに改められ、1990年には、ほぼ日本と同様の均分相続へと変更されているようだ。

3.最高裁の意見判決

 今回の法改正に先立って、2月3日には韓国の最高裁にあたる大法院が戸主制を意見とする判決を下している。

韓国 憲法裁、「戸主制」は違憲(東京新聞・Mainichi Interactive 2/4)
戸主制に事実上の違憲判断 廃止運動に勢い 韓国 (共同・産経新聞 2/3)
「新地平開いた」「旧正月最悪のお土産」戸主制の憲法不合致決定で評価分かれる(東亜日報 2/3)

 大法院は、韓国の戸籍業務を統括する役所的な機能もあるらしく、現在開かれている臨時国会に、新しい「個籍」制度に変更する法案を国会に提出しているらしい。1月10日に法案提出の方針を発表している。

最高裁判所、新しい身分登録制案作り(東亜日報 1/10)

 この記事は大法院の案を次のようなものだと紹介している。

「現在の戸籍謄本は戸主を中心に配偶者と親、子供、兄弟姉妹など家族成員の結婚、死亡などすべての身の上情報を盛り込んでいる。これに比べて最高裁の身分登録簿は、誰でも本人が基準になって本人の親と配偶者、子供など基本家族の名前と住民登録番号、本籍などの基礎情報だけが記載される。兄弟姉妹の情報は記載しない。」

4.大法院の「個籍」案と法務部の「家族簿制」案

 他方、政府法務部は、個籍のほかにもうひとつ家族単位のデーターベースをつくり、これを組み合わせながら利用するという別案を検討中だという。これを「家族簿制」というネーミングで紹介している。

 もし、大法院案と法務部案の双方が提出されれば、「国会は二つの案を土台に臨時国会以前に最終案を確定して戸主制廃止を議決した後、戸籍法を代替する身分登録法を制定することになる」と見とおしている。ということは、もうすでにここらへんの調整も済んでいるということなのかもしれない。
じっさいはどうなっているのか…。

韓国で戸主制度が廃止/「戸籍」から「個籍」へ(週刊金曜日 1/28)

5.個籍法の実施をまって2008年に戸主廃止

 おそらく、このような議論を踏まえてであろう。国内各紙も、「戸籍」制度の改正や施行を待ってから、2008年に戸主制の廃止を実施すると報じている。

6.儒教か日帝か

 さて、韓国系メディアを眺めていると、そもそも戸主制の起源がどこにあったのかが、議論されている様子がうかがえる。日本のメディアでは、儒教国だからということが強調されがちだが、日本の植民地支配が、このような差別的な意味合いを持たせたのだという捉え方も、かなり根強いようだ。

戸主制廃止に賛否両論(統一日報 9/10)

 この記事では、識者の指摘を紹介したあと、

「現在の戸主制は、日帝時に日本が朝鮮人に対する強制収奪と人的管理のために朝鮮民事令に基づいて導入したものを1960年に制定された民法で体系的に整備した、というのが本当のところのようだ。」
とまとめている。

 昨年9月10日のこの記事には、戸主制度の問題点が良く紹介されていて、ぜひ目を通しておいていただきたい。ちょっと長めに引用しておく。

「戸主制は男子血統をつなぐことに焦点をおいており長い間、男女差別の温床とされてきた。現行民法上では戸主である父親が死亡した場合、戸主継承の優先順位を息子、孫、娘、妻、父親の母、息子の嫁の順に定めている、例えば父と息子が同時に死亡した場合は、事実上家長の役割をする父親の母と息子の嫁、娘などの女性は皆、幼い孫が戸主となる新たな戸籍に入るようになる。3歳の孫が70歳のおばあちゃんの戸主になることもあり得る。  夫婦が離婚し母親が息子を引き取る場合、その母親は実家の戸籍に戻ったり、単独で戸籍を持つことができるが、その息子の戸籍は父親の方に入ったままになる。離婚した母親とその子女が同一の戸籍に入るのは、現行法上ではあり得ない。  極端な例だが、夫が浮気をして産んだ息子は、妻の同意なしに戸籍に入れることができる一方、再婚した妻が前夫との間の息子を現在の夫の戸籍に入れることは極めて難しい。舅(しゅうと)が戸主である場合は、前夫だけでなく舅の同意まで必要になってくるためだ。」

7.韓国保守層の反応

 さらに保守的な立場からの論評には次のようなものを見つけた。

戸籍が無くなっても家族の価値は守らなくては(朝鮮日報 3/2)

 日本との過去の関係を清算しようという雰囲気は、果たして今回の改正議論にも影響を与えているのだろうか。はっきりとしたことはわからないが、次のような記事を読むと、そんなことも考えたくなるのである。

国の根幹揺ぶる立法の嵐(統一日報 9/15)

 なお、この記事では、韓国国会の様子もうかがうことができる。やはり、日本との過去の関係を清算しようという雰囲気が、現国会にかなり漂っているようであるから、保守派を説得するのに日本帝国主義からの脱却というアプローチが、一役買う場面もあるかと想像してみたりもする。

 あー。あっしが自分でハングルのメディアを読めないこともあって、疑問点や空白が埋まらず、なんとももどかしい。ともかく日本語ベースでさらって以上のようにご紹介いたします。あくまでレビューとして、ご活用くださいませ。


関連ブログ紹介
最高裁判所、新しい身分登録制案作り(呉智慧)
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戦闘教師「ケン」

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