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June 09, 2004

そういう問題かぁ?…国保法施行規則改正

 入管法改正の記事が終わらないが、昨日6/8に、国保のニュースが飛び込んできたので、それについて。


  不法滞在者を一律除外に 外国人の国保適用対象から


 不法滞在の外国人をめぐる医療問題で、厚生労働省は、国民健康保険法の施行規則を改正し、在留資格のない外国人などが国保に加入できないことを明文化する。8日から施行し、国保の運営者である全国の市町村に周知徹底する。(2004.06.08 共同通信)

  改正を正確に知りたければ6/8日付けの官報に出ており、PDFでダウンロードできる。
                             ・官報2004.06.08

「在留資格のない外国人でも、安定した生活を継続的に営み、将来も維持する可能性が高い場合は加入が認められる…」
最高裁は今年1月、厚生労働省の意に反するそんな判決を下した。
 この判決を受けて、やむなく同省も方針転換…、となることは現実にはなかったわけだ。

 実は、判決直後から、同省保健局がこの判決に対する反発する雰囲気だったことは、あっしごときのところまでモレ伝わっていた。じっさいに多くの市町村の窓口では、判決後も以前と変わらぬ「現状維持」での対応が続いていた。
「判決後の未加入を争えば、オタクの反論は持たないし、負けるよ」
とある役場でそんなセリフを使ってみたが
「まあ、そりゃそうなんだけどね…」そんな反応だった。
自分のところが事件にならないことを願う…。そんなニュアンスのやり取りもあった。

 さて、そもそもことの始まりは92年、同保健局が自治体向けに発した通達だった。
それまで在留資格に係わらず加入することができた国民健康保険は、この通達で在留資格のなかったり、あっても、1年以内に在留資格がなくなってしまうとみられる外国人は医療保険を利用することが出来なくなってしまったのである。

 裁判で争われたのは、無国籍で韓国から来た中国系外国人の息子の手術・入院費用だった。
高校入学直後に脳腫瘍が発見され、病院は手術をし長期入院。そしてリハビリをした。小学生のころから「風邪をひくな」そう言われながら育った子どもだったが、彼にどうすることができよう。そんなケースだ。

 裁判に臨んだ原告側は、国保法には加入要件として「住所があること」と定義されている点を突いた。
じっさいいくらくまなく読んでも法令上はこの規定しかない。

「日本に住所がない!? それじゃあ他のどこに住所があるというの?」
「韓国? それとも中国?」
「それは何県何市何町の何番地のことなんだ言ってみろ!」

 そう詰め寄られたらら、横浜市や国側の反論は、まあ、素人目にはまったく説得力がない。
 原告に対する失礼を承知でいえば、父親すら無国籍で出身の韓国に戻ることもできないなんて、ここまでよくぞ「住所論争」にぴったりの原告がいたものだ。

 教科書的にいえば、通達はあくまで組織内部しか拘束しない。
つまり厚生労働省と、同省から業務を委託されている自治体の担当部局の行動規範とはなりえても、その行為が正しいことを対外的には保証しない。だから法廷では、行政機関の行為の根拠とはみなされず、あくまで参考資料となる理屈だ。
弁護する上では当然の戦術といえる。

 最高裁の判決でも、「国民健康保険法に不法滞在の外国人を排除する規定はなく…」と、加入の妥当性を市町村が判断すべきケースがあるだろうと論を進める形になっている。

 自らが発した通達が否定された格好になった厚労省。
 ならば、施行規則を改正して、いったん否定された通達と同様の文言を入れてしまえばよいだろうというのが今回の振る舞いだ。施行規則は省令と呼ばれることもある。同省が一方的に制定できる上に、通達とはことなり法的な拘束力があるから、「これなら文句はないだろう」とやり返したわけだ。

「ちょっとまてよ。そういう問題かぁ!?」
…そう言っても、もちろん待ってくれるわけではないが、「ちょっと待ったコール」で手を挙げたい。

 最高裁判決とて、全面的に92年通達の趣旨を否定しているわけではない。「対象を適法な居住関係者に限定することに合理的な理由はある」としっかり述べている部分もある。あっしにはこの最高裁判決が92年の通達を否定しているようには読めない。むしろ、ほんのちょびっとしかない例外的な事例には、きちんと配慮して適用しなさいということだっと読める。いやそう読むべき判決なのだ。

 そもそも国保法の「精神」は皆保険制度の実現だった。当時は国民皆保険制度といわれたが、「国民」はもはや日本国籍保有者に限定して理解すべき時代ではない。最高裁の判決をこの意味からとらえれば、今回の政令の「改正」は判決の趣旨とは正反対の措置だといえる。

「じっさい、市町村はどうやって判断すべきなの?」という主に窓口現場の声も聞いている。でもね。今回裁判で争われたケースを考えてみてよ。これを認定できない感覚がどうかしてるんじゃないの? 
 じっさい、92年通達に反して、在留特別許可の審査中の母子家庭などに国保を適用している自治体はいくつかそのスジでは知られている。より詳細な事実認定が通常業務となっている生活保護の適用では、もっと多くの自治体がこうしたケースに対応している。必要性を感じて職員がノウハウを磨いてきた自治体には、厚労省が「できない」という認定業務をすでにやっているわけだ。
 最高裁がしめした在特申請中というラインなら、実務はそれほど難しくない。

 これを全国一律で、だめとした厚労省の感覚のなさ。そうしてくださいと頼んだと言われるいくつかの自治体のなさけなさ。事態の解決は、こうした実務能力の育成にあるのかもしれないけれど、いくつかの自治体で実践されているこの芽を摘むことになるという意味でも、今回の政令は時代錯誤だと指摘しておきたい。
「実務」のためとか「一律に」とかそういう理由で、またしても現実への対応は遅れることになってしまうだろう。いつでも置いてきぼりを食うのは現実なのだ。


国民健康保険:不法滞在外国人も加入資格あり 最高裁 2004/01/15
横浜市、最高裁判決で原告の国保加入へ(2/17)

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