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May 31, 2004

入管法改正論議を観戦して-6 (難民認定制度)

 すでに先週のうちに衆院での審議もおわり国会を通過成立してしまった入管法改正案を、こんな風に紹介して何の意味があるのか。そんな疑問を感じながらも、あと数回は続けようと思う。
 法案が可決したからといって、じっさいにその効果を大きく左右することになる政令(=施行規則)は、これから施行までの半年間に作成される。法務省・入国管理局が自ら起案し自己の権限で制定する施行規則は、いつも施行の直前に発表される。この施行規則がどんなタイムスケジュールで作成され、誰が関与することになるのかまで私は知らないのだが、ときにこれが法案以上に大切なところになりうる。
 それに今回はふだんの改正と違って前例のない難題が残されている。参与員制度の人選をどうするのかである。こればっかりは、じっさいに引き受ける人がいなけりゃならないので、法務省・入国管理局の権限といえども対外的な折衝が必要となる。半年後に大勢の参与員を集めるメドが立つかどうかは、非常に大切だし「観戦」しがいのあることのように思える。タイムスケジュールを考えてみても、半年後の施行日前にメンバーを固めようとするには、あと3か月以内、つまり9月初旬、遅くも10月の臨時国会の前におよその方針が固まっていなけりゃならないような気がする。*1
 というわけで、今回は注目の参与員制度を中心に国会審議を振り返ってみよう。

     *1……施行日を誤解していました。文末のコメントを参照してください 6/9  


(1)UNHCRや日弁連の推薦

 いったい、参与員の人選はどうなるのか、野党民主党の江田五月に対し増田入国管理局局長はこう答えた。
「日弁連に推薦をお願いする、あるいは御助言をいただくということは前向きに考えたい」「公正中立な方を御推薦いただけるのであれば、UNHCRからの推薦なり御助言をいただくことについても検討したい…」
 実質的な審議初日といえる4月8日のこのやり取りこそ、実質的な今国会のハイライトであった。

 同じ日、与党公明党の木庭健太郎と同局長は、かなり体系立ったやりとりをしている。その中には次のような答弁もあった。
「例えば公正中立な立場の団体、組織、あるいは有識者等に推薦をお願いして、その推薦いただいた方の中から法務大臣が選任することなども検討したい」
 もちろん、党の法務部会でのやり取りなど公明党と法務省には事前折衝の積み重ねがあり、事前にこうしたことはすでに打ち合わせ済みだった可能性が高い。この法案を巡る実質的な討議が行なわれた舞台はじつは公明党の法務や外国人政策の部会ではなかったかということを十分に感るのであるが、その分は差し引かねばならないにしても、木庭氏の質疑は実務面を詰めて考えるという意味で中身の濃いものであった。

 UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)や日弁連など、個々の申請案件でも入国管理局とことなる見解を公にしてきた組織を名指ししてその候補だと明言したことは、今後に大きな影響を与えるであろう。国会通過後もこの点はぜひ注目されるべきだ。


(2)内部審査と第三者機関のそのあいだ

 法案以前にちまたで議論されていたのは第三者機関によるチェックを入れるかどうかである。
 入国管理局でいったん難民認定を拒否されても、申請者は異議申立てをし、二次審査を請求することができる。ただし、この二次審査は、現在一次審査をして拒否した難民審査官が行なっている。仮に担当者を変えたとしても、身内であることには変わりはなく、まして最終的な決定の権限を持つ責任者レベルでは、まったく同様の顔ぶれが判断することになる。
 これでは、いったん下した認定がずさんなものだったような場合でも、ずさんだったと批判すれば、組織全体の面子にかかわってしまう。新証拠が提出されたなど特殊なケースを除けば、一次審査を否定するような結論は組織上の論理から得られるわけがない。
 一方、現状がまったく透明でもなければ公正でもない、ずさんそのものであるという認識に立つならば、現状をいかに修正するか、その切り札となるのは外部の第三者機関によるチェックである。現にこれしかないということで推進派の見解は一致している。
 民主党は「難民保護法案」を今回の国会に提出してたが、その内容はこのような推進派の見解を見事に盛り込んだものだ。

 もちろんこれまで入国管理局の行なってきたずさんな審査も、最終的に第三者機関によって覆されてしまうようなら、適切なものに変化せざるをえないだろう。一次審査など大半の業務は入国管理局が行なうことに変わりはないのだが、具体的な審査方法や認定基準について、局や省は決定権を事実上失い、第三者機関に譲り渡すことになる。

「取締りと在留資格や難民の認定業務とは密接な関係がある」
法務大臣と入国管理局長はこの答弁を幾度となく繰り返した。
「難民認定とは事実認定」に過ぎないという原則に忠実たろうとする立場からすれば、まるで「難民政策」みたいなものがあるかのような大臣らのこの説明は、まったく理解できない。
 権限こそ省益だとは言い古されたことばだ。しかしこの場合に限っては、実務は省内に残るのであるから、担当者の育成やノウハウの蓄積には何ら変更はない。犯罪や違反の手口に関する情報を共有するという意味でもこれまでどおりだ。最終的な判断とその責任は第三者機関に委ねられるのだから、同省が批判に晒される心配もなくなるというのに。
 もしかしたら入国管理局は、過剰な期待から開放されるチャンスを自らつぶしたように思える。
 そして、「身内でやりたい」としか理解できない先の答弁が何度も空虚に繰り返された。


(3)なにがポイントか

 なぜ間を取る必要があるのかそこらへんのロジック(理論)が弱いのは、この社会の慣わしであるとはいうものの、またしかり。参与員制度とは、この第三者機関と内部審査の中間形態である。そのイメージも今回の審議をとおしてかなり明らかになってきた。

 1事案あたり3人の参与員が審査して意見書を作成し、二次審査はその意見書を参考にして最終決定を下すというという仕組みだ。参与員のなかには現在の認定システムに疑問を持つ人も入れることで初めて第三者性が確保される。そこで冒頭で触れたようにUNHCRや日弁連の名前が挙がることになった。

 さて、ポイントをいくつか挙げよう。3人の参与員は、議論と意見の調整はするが、最終的にはバラバラに意見書を書く。そしてバラバラな意見書は意見書でしかない。極端な話ではあるが3人全員が認定すべしという意見であっても、その後の行政訴訟さえ覚悟すれば、その申請を却下することができるのである。

 そうなれば、果たして3人の参与員に反して下した決定が、裁判に耐えうるかどうかは、どのような事案がそうなるのかも含めて、気が早いといわれても、大変気になるではないか。まして、すでに冒頭で触れたとおり、この3人の参与員の中には、かならずしも法務省の言いなりにならないような人物が含まれそうな気配である。具体的な事案を考えれば、3人の中に1人はこれまでの認定に疑問をもつような人物が含まれるのかもしれない。国会での説明はまさにそのようなイメージなのだ。
 それが2対1ならどうか、逆に1対2ではどうか、ここらへんになると十分予測される範囲内となってこよう。

 推進派の立場からすれば、実際のケースで1人以上は参与員としてなるべく推進派に近い人物が担当するか否かが分岐点となる。多少テクニカルな領域の感もあるが、この観点から実務を左右する点を以下のように列挙することができる。

 ・だれが事案毎に参与員を人選するのか。

答弁:地方入国管理局の異議審査担当部局

 ・何人の参与員を任命するのか。
  

答弁:全国で十数人

 ・参与員には誰がどんな資料を与えるのか。

答弁:地方入国管理局の異議審査担当部局

 ・参与員には独自の関係者のヒアリングも含め調査権限があるのか。

 答弁:「ある」「政令で難民審査参与員には法務省令において所要の調査を求める権限を付与することを予定しております。それによりまして、現在、難民調査に係る法務大臣による適正な判断を行うために実施しております難民調査官による関係機関への照会とか、あるいは各国の政治状況等の事実調査の結果等、これが改正後におきましても活用することが可能であると考えております」

 ・参与員はどんな意見書を書き、申請者の手にそれが渡るのか。

答弁:「難民審査参与員の意見については、今申し上げたような趣旨を没却しないよう、具体的に記載して異議申立人本人に告知することを考えております。」
     「異議申立てを却下あるいは棄却する場合に難民審査参与員の意見と法務大臣の決定理由が異なるときには、ともに理由付記中にそれらを記載して、法務大臣が難民審査参与員の意見をどのようにしんしゃくしたのかが異議申立人本人にも分かるように告知することになります。」

 つまり参与員には決定権がないとしても、これまでまったく非公開だった審査を公開する効果はありそうなのだ。どのように事実が認定されたのか、そして不許可のポイントになった理由が明らかになる可能性がある。これは、法的には事実認定オンリーで考えるしかない「建前の砦」である法廷では、決定的な意味を持ちうる…、のかもしれない。


(4)参与員を引き受けるのはどんな人

 ようするに、運用しだいで効果的にも腑抜けにもできるという制度で、今後の動向にずいぶんな話題を提供していることがお分かりいただけただろうか。
 運用という観点からもうひとつだけ疑問点を挙げたい。それは、参与員を引き受ける人はどんな人かという予測である。じつは考えれば考えるほど、そんなん引き受ける人がいるのか? そんな感じも強く抱くのである。

 まず参与員がかなりハードワークになりそうだということである。全国で毎年およそ200人の申請者が異議申立てをしている。そして、予定されている人員は「十数名」なのである。さらに法務省の説明によれば、平均的には半年で一次審査がおわり次の半年で二次審査がおわり、合計1年で認定作業を終えるというのが、平均的なイメージだということになっている。
 まあ、この平均値は支援活動をしているグループも支援しきれない(=認定される目のより少ない)申請者もかなり含まれていると思われ、支援の輪が形成されているケースばかりを知っている私からすれば、異様に短いイメージだが、それにしても、参与員がかなりのハードワークになりそうではないか。
 大半のケースに関しては、省令で付与された調査権も行使できずに入国管理局が手渡す資料と本人のヒアリングぐらいで「流す」ことになるのじゃないだろうか。まあ、これはそんなもんかも知れないとは思わなくもないが、さて、そんな仕事を引き受けそうな具体的な人物とはだれだろう。たとえば弁護士だとしても、現在多数の申請者をクライアントにしながら貧乏事務所を決め込み、忙殺状態で活動しているんでる面々を思い起こしながら、「うーん」とうならざるを得ない。認定推進派は負担を分担しながら上手くここに人材を送り込む体制を整えられるだろうか…。

 で、「60日ルール」はどうなの? 「仮滞在制度」は? そういう声を気にしつつも、いったん本稿はおしまい。

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Comments

 本文中、改正法の施行時期について、誤認がありましたので訂正させてください。難民認定制度部分の改正については、公布日の6/2より1年後をメドとはされていますが未確定です。
 本文ではふれていませんが、精神障碍者に関する拒否事由の緩和については公布日より2ヶ月後です。
 なお、その他の部分に関しては、半年後の12月初旬施行です。
 以上訂正してお詫び申し上げます。
 お忙しい中、わざわざご指摘くださったS先生。ありがとうございました。

Posted by: 渋谷次郎 | June 10, 2004 at 10:14 AM

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