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May 20, 2004

入管法改正論議を観戦して-3 (在留資格の取り消し)

 昨日5月19日には衆院本会議で法案の趣旨説明が行なわれた。21日(金)には法務委員会での審議が始まり、早ければ来週末にも裁決になるかもしれないという情勢だ。はやくこの文章も完成させなきゃとあせるなかでの、第三回。


(1)有効期限前でも取り消し?
 出国命令と並んでもうひとつ今回の改正で新設される規定は、「在留資格の取消し制度」である。
「永住者」を除くすべての在留資格には、1年間だとか3年間といった有効期限がある。大半は申請すれば更新できるタイプだが、更新時に申請書と関連書類を提出させて再度審査されるわけで、現状では一度交付された在留資格の期限前に、在留資格が取消されることはほとんどない。

 たとえばもし離婚しても、日本人の夫や妻である外国人の「配偶者ビザ」が、すぐに取り消されてしまうことはない。有効期限が1年残っていれば、それまでは滞在を続けながら身の振り方を考えればよい。
 アルバイトに明け暮れて学校に行かなく(行けなく?)なってしまった留学生が捕まるのは、在留資格が取り消されるからではない。認められている時間を超えて働いていたことや、認められていない業種で働いていたことが責められているという理屈になっており。在留資格を取り消されているわけではない。

 この制度を作ったことで、バンバン怪しい人物の在留資格が取消されることになる…。という解説をメディア等で見受けるが、ちょっと冷静になるとそれは考えにくいことがすぐにわかる。まずは法案を見てみよう。

(2)取り消し理由1「申告した活動をしていない」

 改正案にある「在留資格の取り消し制度」は2つの内容を含んでいる。
 まずひとつは、申告されている入国目的とは異なる活動しかやっていないケース。学校に行かない留学生や就学生や、料理人のはずがじっさいには工場で勤めていたような場合である。

(3)日本人の配偶者等は対象外

 ちなみに「日本人の配偶者」の在留資格は、この意味での取り消し制度の対象外とされ、これまでどうり、更新手続きの審査で対応される。
 じっさいには労働者と変わらない状態で働いている「研修生」もその対象になるのだが、これは倫理的にはおかしな点を含んでいる。そんな働き方をさせている企業やあっせん業者にこそ責任がありそうなものだが、「研修生」ばかりが不利益を被ることになるからだ。

(4)取り消し理由2「不正な申請」

 取り消し制度のもうひとつの対象は、入国目的や経歴などを偽って入国手続きや更新手続きを踏んだケースだ。こちらは日本人の配偶者も対象になっている。
 なかでも、過去の犯罪や強制退去歴などいわゆる上陸拒否事由に該当することを隠して入国した場合は、即取り消しで退去強制するという最高に厳しい内容になっている。リピーター対策としての位置付けだ。
 それから、目的や身分を当初から偽って入国したケースについても退去処分となるという厳しい内容になっている。ここで身分というのは、残留孤児や日系人や日本人の配偶者といった家族関係が主となる。じっさいにはない家族関係をでっち上げた偽装のケースだ。

(5)帰国準備期間と自主出国

 とはいっても、前節(4)で指摘した以外の不正は、より軽微な不正とされている。そしてより軽微な不正の場合は、在留資格をその時点で取り消した上で、帰国準備期間を与え自主的に帰国させることになっている。
 アルバイトに忙しくなりすぎた留学生のように、入国後なんらかの事情で本来の活動が3か月以上出来なかったケースや、不正な申告のうち、卒業証明書や母国での経歴や収入などでニセの証明書を使ったケースでは、再入国禁止期間が長い退去強制処分にはならないで済む。

(6)誰がいつ使うフリーハンドか

 たしかに、入国管理局がかなりのフリーハンドを握ったことになる条文ではある。しかし、すでに更新時に審査をしていることや、すぐに調査できるスタッフがいるわけでもなく、このフリーハンドを使わなければならなくて、なおかつ人的に対処できるようなシーンがなかなか思い浮かばない、というのが率直な感想だ。
 現状でも更新の度に審査しているのだから、その上さらに調査と審査をして取消すようなオペレーションを広く行なうことは事実上不可能だし、その必要性は希薄なのだ。

 まず、実行性ということを考えれば、槍玉に挙げられている日本語学校に所属する就学生のように、その時々に浮上するテーマに沿って重点的な運用をすることがありえなくもないが、そうしたテーマを扱う専属タスクチーム編成をするわけでもない。つまり、バンバン取り消すようなやり方をするには、実務を担う人力の裏づけが見当たらないのである。統計的に扱えるような効果は期待できず、あくまでレアなケースを扱うのがせいぜいではないだろうか。

 次に、必要性ということで言えば…。
 典型的な例と想定されているのは、学業を放り出している留学生にしても、いまさら法改正を必要とするわけではない。外国人の扶養家族や留学生のための在留資格のように、就労が禁じられているか制限されている在留資格で、認められた範囲外の職業に就いていた場合には、認められない就労を根拠に退去を強制できる規定がすでにある。
 ただし現行で規定されている退去事由は、非公認の就労活動を「もっぱら行なっている」場合と規定されているので、何でもかんでも送還という現在の運用が司法の判例で覆される可能性がないわけではない。
 現に、係争中の事例のように、熱心に勉強していた優秀な学生が退去処分を受け「退去はひどい」と訴訟に持ち込んだケースで、裁判官が同情を示ししている事件がある。退去をちらつかせながら「任意に」出国を選ばせたほうが無難という、見方は十分に成り立つ。

 対応できる人的資源から推測すると、おそらくその対象は「密告」のうち緊急性があるものに限られることになるだろう。密告を受けて本人に事情を聞き、退去をちらつかせながら「自供」を得て「任意出国」に持ち込む。これなら、これまでよりグレーゾーンで放置してきた部分に踏み込めるかもしれないし、もしじっさいは入国管理局の勇み足になってしまったとしても、「自供」があり本人が「任意出国」しただけだから、いきなりの収容・退去処分とちがって行政訴訟に持ち込まれることもなくなる。そんなことが想定されているのかもしれない。

(7)従来型の取り消しとの関係

 長々とみれば見るほど「真意」のわからない新制度だと、ここまで付き合っていただいた方なら、すでに、お分かりいただけたことと思う。
 最後に、本当はここが目的なのかもしれないと思わせる点をひとつだけ指摘しておくことにする。

 メディアではまったく指摘されていないが、じつはこれまでも、在留資格が取消されることがなかったわけではない。
 日系人や残留孤児であることを偽って入国し、数年後にこの偽りが露見したような場合には、これまでも在留資格の取り消しが行なわれてきた。
 親子関係を偽るいわゆる「ニセ残留孤児」や「ニセ日系人」のケースであるが、これとてあくまで更新の機会を捉えて対処するのが一般的だが、すでに期限のない「永住者」の資格を持つ場合にはこの手法を採用することはできない。そこで、有効な在留資格が取り消されることになっていた。

 入管法には取り消し制度がなかったのに、なぜそれができるのであろうか。それは一般論として、「不正な申告に基づいて行政機関が行なった処分を取り消すことができる」という考え方があり、これにしたがって取り消されているのだ。
 ただし、このような一般論による取り消しは、手続き的な規定がまったくないうえに、その処分が行なわれた時点に遡(さかのぼ)り取り消されることになるため、法的な権利義務関係に大きな影響を与えることになる。そういう法律的な理論上の問題がある。…という指摘がある。
 摘発の時点までに、在留資格があることを前提に受け取られている雇用保険や生活保護などの給付金はどうなるのか。せこい話が山ほど持ち上がりかねないというのだ。
 事実上その不正受給の回収なんて不可能だと思われるが、摘発時点や、最終的な審査時点までしか取り消される期間が限定されることになって、そうした影響が少なくなると説明されている。しかしまあ、もし不正受給だとしても、退去されてしまえばその回収のメドなどたつわけがないと済まされてきただけの話だから、とくに回収を狙うわけでもない今回の改正にとくにメリットを見出すことはできない。
 残留孤児の支援にあたる人権団体の中には、上記のような観点と、形式的には取り消し制度に事前に本人に聴聞する規定があることには評価を示し、「これまでのようにある日突然取り消しがやってくる」という現状の改善に期待する声がないわけではない。
 それじゃあ、一般論による取り消しを今後しなくなるのかどうかという点はでは、不明朗さを残している。ある入国管理に詳しい弁護士は「聴聞を規定する以上、その規定に抜け道を与える従来型の取り消しはできない」と指摘する。
 
 残留孤児関係でもすでに日本生活が長くなっている昨今では、日本社会に定着している度合いが強くなっている。たとえ最初は不正による入国であっても、その事情によっては在留特別許可が無難かつ適切と思われるケースも増えているだろう。もしかすると、収容や退去処分の前にワンクッション置き、吟味する機会を設けたいのだとすれば、あるいはこの取り消し制度は有効に機能しうると言えるかもしれない。
 もし、この意味で取り消し制度を用いるとするれば、人道的な配慮の広がりを意味している。ただし、半減を表向きの基調とする今回の改正論議では、たとえこれが本音であったにせよ、それを明言することがはばかれているのであろうか。


【5/27に追加の関連記事】
血縁なしで退去処分33人 残留孤児ら在留許可訴え

 中国残留日本人の子供として来日したのに、養子や継子で血のつながりがないため退去強制命令を受けた人が、大阪府や九州に少なくとも9家族計33人いることが24日、支援団体「中国残留日本人の継子・養子の家族を支援する連絡会」のまとめで分かった。
 家族が退去を求められた中国残留日本人らは同日、東京・霞が関の厚生労働省内で記者会見し「家族をばらばらにしないで」と在留特別許可を認めるよう訴えた。
 会見したのは、熊本県在住の中国残留孤児井上鶴嗣さん(63)ら。連絡会によると、退去を求められた33人のうち13人がやむなく中国に帰国し、一部は退去処分取り消しを求める民事訴訟を起こしている。
 井上さんは、中国で結婚した妻が前夫との間にもうけていた娘2人とその家族が来日後、入管に収容された。会見で「娘とは長年一緒に暮らして自分の子と同じ。一緒に暮らせないのは納得できない」と訴えた。
(共同通信)[2004年5月24日]

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